神秘と輝きを宿す
天然アバロニパールの美しさ
古くからその神秘的な美しさと希少性で、コレクターやジュエリーの世界で高い評価を受けてきた宝石、アバロニパール。
アワビ貝の中で育まれたその姿は、複雑な模様と鮮やかなグリーンやブルーにピンクやイエローが混じり合う独特な色をしていて、他の海水パールとはまた違う美しさがあります。
今回の特集は、sCenesではじめての取り扱いとなる天然アバロニパールについて紹介させていただきます。
アバロニパールはどこに
「アバロニパールは日本ではあまり取り扱いが無いのですか?」
とあるパール好きのお客様から質問されたことをきっかけに、アワビから採れた真珠 "アバロニパール" を探すことになりました。
アバロニパールはそれまでもパールの仕事の関係上何度か見ることはありましたが、私たちが普段扱っている養殖の海水パールの世界とは、また違った販売ルートで取引が行われていることもあり、これまで取り扱った事がありませんでした。
確かにネットで検索してみても日本での販売店は少なく、知り合いの天然真珠のブローカーに声を掛けたものの、アバロニパールは扱っておらず、仕入れ先を見つけるまでは少し時間が掛かってしまいました。
アバロニパールとは
アバロニパールには天然と養殖があります。
元々アバロニパールは古くから存在し、食用として採られたアワビ貝の中から、偶発的に採れる天然のものしかありませんでしたが、養殖パールが生産されるようになってからは、日本の宮城県や長崎県、韓国、ニュージーランド、メキシコなど様々な地域で半形の養殖パールが作られるようになりました。
しかし現在も商業的に養殖のアバロニパールを生産しているのは、ニュージーランドだけとなり、その生産量は多くはありません。
市場で販売されている養殖のアバロニパールの生産プロセスは基本的にはマベパールと同じで、殻と外套膜の間に半形状の真珠核を挿入し、貝殻の内側に核を接着し、その上に真珠層が覆ったところを切り抜き、加工された物となります。
養殖アコヤパールのような真円形のパールではなく、半形状のパールのみが作られている理由としては、巻貝であるアワビ貝が傷を凝固させることができないという特性にあります。
アワビはほんの小さな切開をしただけで失血死してしまい(血友病のようなもの)、また二枚貝のように蓋が出来ないアワビは、体内に核を入れても外科手術をしない限りは核を内部に留めておくことが出来ません。
そのため、アコヤ貝や白蝶貝などの二枚貝の養殖のように、全体が真珠層で覆われた核入りのパールを作ることが出来ないのです。
また、アワビの成長速度は他の真珠母貝に比べると遅く、1年で約25mmほどしか成長しない為、稚貝の育成から養殖にかかる時間が長く、極めてコストやリスクの高い産業でもあります。
現在産業としてアバロニパールが養殖されているのがニュージーランドのみと言うのは、そういった背景が要因の大きな部分を占める事は明らかです。
ただし、近年ではチリのアントファガスタ大学の学者により、レッドアワビ(学名: Haliotis rufescens)と言う種のアワビを使い、外科手術を施すことで有核養殖真珠を養殖することに成功したと報告があります。
今後この外科手術等の養殖プロセスの技術が向上されていけば、市場に有核のアバロニパールが出てくる可能性も考えられますが、現在のところは市場には出ていません。
(参照1: https://www.gia.edu/doc/Culture-Abalone-Blister-Pearls-from-New-Zealand.pdf)
また、アワビの貝殻を切断して作られたアクセサリー素材もありますが、これはパールではありません。マザーオブパールと書かれている場合は真珠を作り出す母貝の事をいいます。
カリフォルニア産クジャクアワビの貝殻。その名の通りクジャク模様が美しい真珠層を持ち、螺鈿などの貝細工品にも使用される。
つまり、現在市場で取引されているアバロニパールは、大まかに分けると以下のいずれかになります。
- 貝殻を切り抜いて採れた半形状の養殖アバロニパール
※ニュージーランド産のヘリトリアワビ(学名: Haliotis iris)で養殖されたパール - 養殖アバロニパールを作る中で副産物的に生まれてくる、天然真珠に近いアバロニパール
※1と同じ - 野生のアワビの中から偶然採れる天然アバロニパール
※様々な産地の野生アワビからパールが採れるが、代表的なのはカリフォルニア沖の水深10mまでに生息する野生のクジャクアワビ(学名: Haliotis fulgens)から採れたパール
- 食用のアワビを養殖する中で意図せず副産物的に生まれてくる、限りなく天然真珠に近いアバロニパール
※食用アワビが生産されている国・地域で採れたもの
それぞれの特徴としては、以下の通りです。
- 半形状の養殖アバロニパールは貝の軟組織(体内)で生成されたものではなく、貝殻の内側に貼り付けた半形の核の上に成長した真珠層を切り抜いて作られるため、円・ハート・涙形など安定した形の製品を作ることが出来る。貝殻から真珠となった部分を剥がした後、樹脂などを注入して裏面に平らなアワビの貝殻を貼りつけて作られます。また、天然アバロニパールは真珠層の無い部分が黒くなるが、このパールは表面に黒い箇所が出てきません。天然に比べると遥かに多い量を作ることができる。
- 野生で採れた天然真珠では無いが、見た目や生成プロセスは天然真珠と同じで出来る事は稀である。養殖ではあるが、天然アバロニパールと同様の欠点(黒い部分の露出)などは出てしまう。価値としては天然真珠よりは低くなる。
- 食用などのためにダイバーが捕獲した野生のアワビから採れるため、出てくる確率が非常に低く、希少価値がとても高い。形は様々だが、真珠の形が流線形の物が多く、キバのような形が天然アバロニパールには多い。貝の軟組織(体内)で生成されたものなので、全体が真珠層で覆われているが、真珠層の無い黒い部分などの見た目の欠点が表面に現れるものがほとんどである。
- 2と同様で野生で採れた天然真珠では無いが、見た目や生成プロセスは天然真珠と同じで出来る事は稀である。品質に関しても2と同様であるがアワビの種類によって色の特徴などは異なる。
左がマベと同じ手法作られる養殖アバロニパール。右が野生のアワビから採れた天然アバロニパール。
sCenesで取り扱うアバロニパールは
アバロニパールを製品にする上では形や品質が安定している養殖が扱いやすいのですが、sCenesでは "北カリフォルニア沖のクジャクアワビから採れた小さな天然アバロニパール" をまずは極少量取り扱う事から始めました。
それは運良く天然アバロニパールのブローカーに行きついた事もあるのですが、ベビーパールのように小さなアバロニパールを探しても、養殖のアバロニパールには無かった事や、貝の体内で生成され出来た物の方が、採り出すまでどんな形なのかも分からないという、生体鉱物であるパールならではの浪漫のようなものを感じたからです。
天然パールゆえ、欠点の無いものではありませんが、天然パールならではの全体像が確認できる裏側が見えるデザインで、出来るだけ黒い部分が目立たないように仕立てました。
小さなアバロニパールのジュエリーはほとんど無いということも、sCenesとして今回こだわったポイントです。
各商品ページには加工前のルースの状態のアバロニパールの画像も掲載していますので、ご参照いただければと思います。
2023年7月8日 20時より販売開始