天然色の碧い色を持つアコヤパール
"海蛍" を求めて
私たちが厳選して紹介しているCOLLECTIBLE PEARLの中でも、ひと際個性的な魅力を放つのが、今回の主役である「海蛍」。
碧く輝くこの魅力的なマテリアルは、どのような背景で作られているのか。「海蛍」の生産を手掛ける北村真珠養殖株式会社の近澤祐介さんにお話を伺いました。
"山の島" 対馬
本土から約130km、韓国まではわずか50kmという九州最北端の国境に位置する対馬。そこに「海蛍」を生産する北村真珠養殖場がある。
sCenes 吉田 (以下 ——) 対馬の養殖場について教えてください。
近澤さん (以下 近澤) 僕たちの養殖場があるのは島の大船越・大山・大増の3か所のエリアです。大増に関しては現在は休眠中ですが、年間おおよそ200貫(真珠が約750kg)以上くらいは生産しています。最盛期に比べると量は減りました。
—— そうなんですね。ではいつ頃から養殖されているのですか?
近澤 もともとは僕の高祖父が三重で1901年から養殖をはじめて、対馬で始めたのはそれから20年後くらいです。はじめに島の真ん中くらいにある大船越でスタートしたんですが、Googleマップなんかで見てもらうと分かり易いですよ。島の中で一番ギザギザとしたリアス式海岸の場所で、真珠の養殖にはとても向いているエリアなんです。
—— なるほど。リアス式海岸のような内海は波が穏やかで養殖には向いていますもんね。でもリアス式のような場所は他にもあると思うのですが、どうして対馬だったんでしょうか?
近澤 三重で養殖を始めてから、更に良い場所を探そうと色々と調査をした中で養殖に向いた環境を対馬に見つけたようです。対馬は島のほとんどが森林で覆われていて、島の中央部にリアス式海岸があるんですが、それが真珠を養殖するにはとても良い環境だったんです。対馬は自然がほんとうに豊かで、貝が育つための良い栄養が山から下りてくるんですよ。
"真珠の養殖は貝が健康に元気に育つ環境があってこそ。"
対馬の豊かな山々に降り注いだ雨や雪は、原生林の栄養分が溶け込み、清らかな渓流を通って海に流れ込み、その栄養豊かな水は植物プランクトンを育てる。
そして、そのプランクトンを餌とするアコヤ貝は豊富な餌により元気に育ち、美しいアコヤパールが生み出される基盤となっている。
100年以上経つ今なお養殖が行われている対馬のアコヤパールが美しいのも、海に囲まれた"山の島"が、今もその美しい環境を保っているからこそ成せる技なのだ。
海で行われている養殖は一見すると山とは関係が無さそうだけど、実は深い関係があるのです。
価値を変える
養殖アコヤパールにおいて最も価値が高いとされているのは、"形は真円で、色は白く、強く光る真珠層の厚いもの"とされています。
これは今も昔も同じで、全国のファーマーが研究を重ね、そこを目指して切磋琢磨しながら作っています。
当然目指す品質から外れたパールは価値が低いとみなされ、ブルー系のバロックパールも、元々価値が低いものとみなされていました。
しかしそのバロックパールの中の一部に綺麗な碧い色を放つ美しいパールがあり、それも同じ価値が低いパールとされている事に疑問を抱いた近澤さんが、他のパールと差別化し価値を高めたもののひとつが「海蛍」です。
—— とても素晴らしい発案ですよね。価値の低いとされてきた物の価値を上げることで養殖の運営もより良くできますし、産業の永続的な発展に繋げることができますよね。でもこんなにも綺麗なものが価値が低かったのも驚きなのですが。
近澤 そうですね。ただブルー系のパールなら何でも売り物になるかと言うとそうではなくて、ブルーの色を持つほとんどのパールはシミ珠と呼ばれる、珠の一部にブルーが入ったようなものばかりで、パール全体に綺麗にブルーが覆うものは非常に稀なんです。採取できる量は全体の中で1%以下かもしれません。最近はハネ珠を使ったジュエリーも増えてきているみたいなので、真珠の価値もより広い範囲で認められる状況になってきていますよね。
海蛍について
—— 詳しい説明を聞く前は、天然色ブルーのアコヤは綺麗だけど色変化の可能性が怖く、取り扱うかどうか慎重になっていました。
近澤 それはそうですよね。確かに物によっては穴をあけた瞬間に色が変わるものもあるけど、すべてが変化する訳では無いです。ただ大珠ともなると、バロックの場合は中に空洞があったりして、穴をあけるとそこからブルーを作っていた有機成分が抜けてしまって、せっかくの美しさが台無しになる場合もあります。なので、大珠は穴をあけずにジュエリーに仕立てることを推奨しています。sCenesさんで扱ってもらっているような9mm以下の珠は、穴をあけても比較的色変化は少ないですし、越物をさらに1年寝かしているので、そうならないように販売までの品質管理は徹底していますので安心してください。
一般的に天然色のブルー系のアコヤは、色の変化が起きやすいとされているパール。
浜上げされてすぐのパールは水分を多く含んでいるため、パール内部の有機成分が安定しておらず、穴をあけると水分の蒸発とともに色変化が起きる可能性があるからだ。
しかし、「海蛍」は通常のパールの養殖期間よりも長く養殖されている"越物"なので、真珠層が厚いうえに色が濃く、更にしっかりとした管理体制の下で浜上げ後1年間ほど水分を飛ばす工程を踏んでいるので、色変化が起きにくく美しいブルーを長く楽しむことができます。
対馬の海を映したかのような、神秘的なブルーを持つパールだけが「海蛍」と言う名を付けられ、1つのパールBRANDとして認定されています。
職人による真珠核を挿入する様子。この作業の技術の善し悪しが出来上がるパールの品質をおおきく左右する。
浜揚げされた越物の海蛍。真珠層が厚くしっかりとした輝きを放つ。
同社が「海蛍」として認定されている中でも、グレードは5段階ほどに分けられており、sCenesではその中でもトップグレードのロットの中から特に良いものだけをセレクトしています。
今回の特集にあたり、海蛍を使ったジュエリーをご用意しました。
COLLECTIBLE PEARLをはじめ、チェーンキャッチなど海蛍の美しさを堪能できるデザインに仕立てておりますので、ぜひご覧ください。
※2022年 1月2日 11:00~ 新商品の販売開始
海蛍を使用したジュエリーは今後も随時追加予定です。
PROFILE
■ 近澤祐介 - Yusuke Chikazawa -
創業から120年以上が経つ北村真珠養殖場の5代目。
2015年に社長に就任して以来、国際宝飾展などのイベントでのセミナーや真珠検定の講師、パールシティ神戸協議会の理事長を務めるなど真珠業界における若きリーダー。
とても気さくで誠実な人柄で、今回の取材も快く丁寧に答えてくれた。
【北村真珠養殖株式会社】
日本でも有数の大手養殖会社。
稚貝の育成から自社一貫管理による養殖をおこなっている数少ない会社で、最上級のパールを生み出すための、効率を度外視した手間を掛けられて出来上がったパールは、日本のパールにおける品評会にて日本一の証である農林水産大臣賞を幾度となく受賞するなど、その品質の高さを証明している。
https://www.kitamura-pearls.co.jp/
より詳しい歴史や真珠養殖についての説明はぜひサイトをご覧になって下さい。